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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)2024号 判決 1964年2月20日

原告 田島奈良雄

被告 鶴崎義久 外九名

主文

被告青根は原告に対し大阪市旭区豊里町一五五七番地畑(現況宅地)二三歩中別紙図面記載<9>の土地部分をその地上に存する家庭番号同町二六三番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一四坪八合木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二坪二合五勺を収去して明渡せ。

原告の被告鶴崎、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、同高村、同山脇に対する請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中原告と被告青根との間に生じた部分は被告青根の負担とし原告と被告鶴崎、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、同高村、同山脇との間に生じた部分は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は「一、被告鶴崎は原告に対し別紙目録記載の土地三筆合計二二四坪(但し別紙図面記載<6>の部分を除ぐ)を明渡し且つ昭和三五年九月一〇日より右明渡済に至るまで一ケ月金二七、〇九〇円の割合による金員を支払え。二、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野は原告に対し別紙占有関係一覧表記載の各自の建物を収去して別紙目録記載の土地中右一覧表記載の各自の占有部分を明渡せ。三、被告高村、同山脇は原告に対し別紙占有関係一覧表記載の各自居住建物から退去して別紙目録記載の土地中右一覧表記載の各自の占有部分を明渡せ。四、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二九年三月一九日被告鶴崎に対し原告所有の別紙目録記載の土地三筆合計二二四坪(以下これを本件土地という)を賃貸したところ、(一)被告鶴崎は原告に無断で昭和三五年四月一日以降被告青根に対し本件土地中別紙図面記載<9>の部分を転貸しこれを使用せしめたので、原告は同年九月七日被告鶴崎に対し内容証明郵便をもつて本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし右意思表示は同月九日同被告に到達した。よつて、本件土地の賃貸借契約は同日右意思表示により解除せられたから、原告は被告鶴崎に対し本件土地の明渡を求め且つ解除の翌日である昭和三五年九月一〇日より右明渡済に至るまで一ケ月金二七、〇九〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。(二)仮に右賃貸借の解除が認められないとしても、被告鶴崎は既述のとおり被告青根に本件土地を転貸したほか、原告に無断で昭和三〇年一一月三〇日頃堀川タミヨに対し本件土地中別紙図面記載<9>の部分につき賃借権を譲渡し同人をして右土地部分を使用せしめたので、原告はこれを理由として本訴(昭和三七年五月二二日の口頭弁論期日)において被告鶴崎に対し本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。(三)仮に以上の転貸又は賃借権の譲渡を理由とする本件賃貸借の解除が認められないとしても、昭和三六年六月八日本件訴状の送達により原告から被告鶴崎に対しなされた一ケ月金二八、八九六円(但し訴の変更により後に金二七、〇九〇円と訂正)の割合による賃料相当損害金の請求はとりもなおさず原告より被告鶴崎に対する賃料値上げの意思表示に外ならないところ、被告鶴崎は同日以降原告に対し従前の一ケ月金六、三〇〇円の割合による賃料の支払をしているに過ぎないので、原告は右賃料差額の不払を理由として本訴(昭和三八年一一月一一日の口頭弁論期日)において被告鶴崎に対し本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。よつて、本件土地の賃貸借契約は終了したから、原告は被告鶴崎に対し請求の趣旨一記載の通りの判決を求める。つぎに、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野は別紙占有関係一覧表記載のとおり本件土地の上に右一覧表記載の各自の建物を所有して本件土地を占有しているので、原告は本件土地の所有権に基いて同被告等に対し右各建物を収去して本件土地中右一覧表記載の各自の占有部分を明渡すべきことを求める。また、被告高村、同山脇は別紙占有関係一覧表記載のとおり被告西岡所有建物に居住して本件土地を占有しているので、原告は本件土地の所有権に基いて被告高村、同山脇に対し右建物より退去して本件土地中右一覧表記載の各自の占有部分を明渡すべきことを求める。よつて、本訴に及ぶと述べ、被告等の抗弁事実を否認した。立証<省略>

被告鶴崎訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告が昭和二九年三月一九日被告鶴崎に対し原告所有の本件土地を賃貸したことは認めるが、その余の原告主張事実はこれを争う。被告鶴崎は昭和三〇年頃本件土地の上に分譲住宅として別紙占有関係一覧表記載の各建物を建築した上これを古本一雄、被告岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野にそれぞれ譲渡したのであるが、右建物の譲渡にあたり、原告の承諾をえて本件土地中右各建物の敷地である別紙図面記載<9>の部分を古本一雄に、同<1>の部分を被告岡本に、同<2>の部分を被告山下に、同<3>の部分を被告平野に、同<5><6>の部分を被告西岡に、同<7>の部分を被告樋口に、同<8>の部分を被告上野にそれぞれ転貸したところ、後に古本一雄はその所有建物を被告青根に売却してその敷地である前記<9>の部分につき土地転借権を同被告に譲渡し、且つ被告西岡はその所有建物の一部を堀川タミヨに売却してその敷地である前記<6>の土地部分を同人に転貸するに至つたもので、被告鶴崎は右の転貸又は転借権の譲渡に関与しておらないから、被告鶴崎に対し古本一雄及び被告西岡のした行為の責任を問うことはできないと述べ、抗弁として、(一)仮に被告鶴崎がみずから被告青根及び堀川タミヨに対し右<9><6>の土地部分をそれぞれ転貸したことになるとしても、原告は被告鶴崎との間に本件土地の賃貸借契約を締結するにあたり同被告から高額の権利金を徴し同被告に対し本件土地の転貸又は賃借権の譲渡を一般的に承諾していたのである。(二)仮に原告よりかかる一般的な承諾がなかつたとしても、被告鶴崎は当時原告の承諾をえて被告青根に対し前記<9>の土地部分を転貸使用せしめたのである。(三)仮に被告鶴崎が右の転貸にあたり原告の承諾をえなかつたとしても、古本一雄は転勤のため止むをえず被告青根に対し前記建物を売渡し<9>の土地部分につき転借権を譲渡したものであり、しかも、右土地部分は本件土地の僅かに一部であつて、原告が右土地部分の転貸を理由として本件土地全部の賃貸借契約を解除し地上建物の収去を求めることは信義誠実の原則に反するのみならず賃貸人としての権利の濫用である。よつて原告のした本件賃貸借の解除はその効力を生じないと述べた。立証<省略>

被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、同高村、同山脇は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告が昭和二九年三月一九日被告鶴崎に対し原告所有の本件土地を賃貸したこと、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野が別紙占有関係一覧表記載のとおり本件土地の上に右一覧表記載の各自の建物を所有して本件土地を占有し、被告高村、同山脇が別紙占有関係一覧表記載のとおり被告西岡所有建物に居住して本件土地を占有していることは認めるが、その余の原告主張事実はこれを争うと述べ、抗弁として、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野はいずれも原告の承諾をえて被告鶴崎から本件土地中別紙占有関係一覧表記載の各自の占有部分をそれぞれ転借使用し、且つ被告高村、同山脇は被告西岡から右一覧表記載の同被告所有建物を賃借しこれに居住しているものであつて、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、同高村、同山脇はいずれも本件土地中右一覧表記載の各自の使用部分を占有しうる正当の権限を有するのであると述べた。証拠<省略>

理由

原告が昭和二九年三月一九日被告鶴崎に対し本件土地を賃貸したことは当事者間に争がない。

原告は(一)被告鶴崎は原告に無断で昭和三五年四月一日被告青根に対し本件土地中別紙図面記載<9>の部分を転貸してこれを使用せしめ、且つ(二)原告に無断で昭和三〇年一一月三〇日頃堀川タミヨに対し本件土地中別紙図面記載<6>の部分につき賃借権を譲渡し同人をして右土地部分を使用せしめたと主張する。しかしながら、被告鶴崎がみずから原告主張のごとく被告青根に対し本件土地中前記<9>の部分を転貸し、且つ堀川タミヨに対し前記<6>の部分につき土地賃借権を譲渡したものと認めうべき証拠はない。もつとも、被告鶴崎が昭和三〇年頃本件土地の上に分譲住宅として別紙占有関係一覧表記載の各建物を建築した上これを古本一雄、被告岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野にそれぞれ譲渡し、右建物の譲渡にあたり、原告の承諾をえて本件土地中建物の敷地である別紙図面記載<9>の部分を古本一雄に、同<1>の部分を被告岡本に、同<2>の部分を被告山下に、同<3>の部分を被告平野に、同<5><6>の部分を被告西岡に、同<7>の部分を被告樋口に、同<8>の部分を被告上野にそれぞれ転貸したこと、しかるところ、後に古本一雄がその所有建物を被告青根に売却してその敷地である前記<9>の部分につき土地転借権を同被告に譲渡し、且つ被告西岡がその所有建物の一部を堀川タミヨに売却してその敷地である前記<6>の土地部分をさらに同人に転貸するに至つたことは本件各証拠により容易に認められるところであるけれども、賃貸人の承諾をえて適法に転貸せられた土地の賃貸借においては、転借人の行為の責任を賃借人に追及することを妥当とする特段の事情が存しない限り、賃貸人は転借人の無断再転貸又は転借権譲渡を理由として賃借人に対し土地の賃貸借契約を解除しえないものと解するのが相当であるから、かかる特段の事情につき主張立証のない本件において、原告は先に認定した古本一雄の転借権譲渡及び被告西岡の転貸を理由として被告鶴崎に対し本件土地の賃貸借契約を解除することはできないものというべきである。また、(三)原告は昭和三六年六月八日本件訴状の送達により原告から被告鶴崎に対しなされた一ケ月金二八、八九六円の割合による賃料相当損害金の請求はとりもなおさず原告より被告鶴崎に対する賃料値上げの意思表示に外ならないところ、被告鶴崎は同日以降原告に対し従前の一ケ月金六、三〇〇円の割合による資料のみを支払い右賃料差額の支払をしておらないと主張するが、原告から被告鶴崎に対し本件訴状の送達によりなされた賃料相当損害金の請求は到底これを目して賃料増額請求の意思表示とは認め難いから、原告は所論の賃料不払を理由として本件賃貸借を解除することはできない。しからば原告の本件賃貸借解除の意思表示はいずれもその効力を生じないから、本件土地の賃貸借契約が右解除の意思表示により終了したことを理由とする原告の被告鶴崎に対する本訴請求部分は失当にして棄却を免れない。

つぎに、本件土地が原告の所有に属すること、そして、被告青根、同岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、が別紙占有関係一覧表記載のとおり本件土地の上に右一覧表記載の各自の建物を所有して本件土地を占有し、被告高村、同山脇が別紙占有関係一覧表記載のとおり被告西岡所有建物に居住して本件土地を占有していることは当事者間に争がない。しかるところ、被告鶴崎が原告から本件土地を賃借し、ついで、被告岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野がいずれも原告の承諾をえて被告鶴崎から本件土地中別紙占有関係一覧表記載の各自の占有部分をそれぞれ転借使用していることは先に記述したとおりであり、且つ被告高村、同山脇が被告西岡から右一覧表記載の同被告所有建物を賃借しこれに居住しているものであることは本件口頭弁論の全趣旨により明らかなところである。しかして、原告より被告鶴崎に対する本件賃貸借の解除が理由のないことは前項に説示したとおりである。してみれば、被告岡本、同山下、同平野、同西岡、同樋口、同上野、同高村、同山脇はいずれも本件土地中別紙占有関係一覧表記載の各自の使用部分を占有しうる正当の権限を有するから、原告の同被告等に対する本訴請求部分はすべて失当としてこれを棄却すべきである。しかしながら、被告青根が同被告主張のごとく原告の承諾をえて被告鶴崎から本件土地中別紙図面記載<9>の土地部分を転借しているものとは到底認め難い。却つて、被告青根は先に認定したとおり古本一雄からその所有建物を買受けるにあたりその敷地である前記<9>の土地部分につき土地転借権の譲渡を受けたものであつて、証人青根与左衛門の証言及び被告鶴崎本人尋問の結果によれば、被告青根は当時右転借権の譲渡につき賃貸人たる原告の承諾を得るに至らなかつたことが認められ、この認定に反する明確な証拠はない。しからば、被告青根は右転借権の取得を原告に対抗しえないから、(原告より被告鶴崎に対する本件賃貸借の解除がその効力を生ずると否とに拘らず)原告に対し本件土地中別紙図面記載<9>の土地部分をその地上に存する別紙占有関係一覧表記載の所有建物を収去して明渡すべき義務がある。

よつて、原告の本訴請求中被告青根に対する請求は正当としてこれを認容し、その余の被告等に対する各請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用し、原告勝訴部分の仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下し主文のとおり判決する。

(裁判官 古市清)

目録

(イ) 大阪市旭区豊里町一五五七番地

一、畑(現況宅地) 二三歩

(ロ) 同所一五五八番地

一、畑(現況宅地) 二畝八歩

(ハ) 同所一五五九番地

一、畑(現況宅地) 二畝一五歩

以上

占有関係一覧表<省略>

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